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コラム記事(No.16) 「はんだ付け部のマイグレーションによる市場不良」について

2022.12.24

「はんだ付け部のマイグレーションによる市場不良」について

 今回は、非常に稀な電子機器のはんだ付け部のマイグレーション不良について説明します。一般的にマイグレーションというとシルバーマイグレーション(Agマイグレーション)が有名であり、そのメカニズムと発生要因は以下の通りです。


Agマイグレーション発生メカニズム】 

Ag電極間にDC電圧が印加されると,Agは絶縁板に付着した水分(フェノール, ハロゲン)と反応し

  て電離し,陰極方向に移動する。 

  Ag ⇔Ag + e

 Ag+は水分のOH-と反応してAgOHとなるが,不安定なためAgOとなって陽極に析出する。 

  Ag + OH ⇔ AgOH    2AgOH ⇔ AgO + HO

 Ago,AgOHAg+のコロイド状になり,Ag+が陰極に移動して放電し,Agとなる。 

   AgO + HO ⇔ 2AgOH ⇔ 2Ag+ + 2OH   Ag + e ⇔ Ag

 

 【発生要因】 

  電極間にDC電圧印加・・・・・電圧が高いほど発生しやすい。 

  導体金属の種類・・・・・Agが最も発生しやすい。 Ag≫Pb≧Cu>Sn・・・ 

   絶縁層の材料構造・・・・・・・電極間距離が狭いほど発生しやすい。 

  還元性雰囲気(フェノール材),ハロゲンイオン(フラックス残渣,塩分)があると発生しやすい。 

   環境・・・・・・温度,湿度が高く,イオン性成分(電解質)があるほど発生しやすい。 

 はんだ接合部においても環境条件が合致すると「はんだマイグレーション」が発生して回路の短絡により使

 用不可能となる場合があります。 

 具体的な発生事例:1990年代、米国の一般的な家庭において、子供用にミニコンポを2台購入しました。バ

 スルームに設置した1台が使用開始後約半年位で回路がショートし使用不可となりサービス部門で製品回収し

 ました。日本に送られ制御回路を観察してみたらなんと典型的な「はんだのマイグレーション」が発生して

 り、きれいなデンドライト状のはんだがランドやパターン間に析出してショートしていました。米国のバス

 ルームは広いですがやはり高湿度といったマイグレーション発生条件に合致して発生したものです。 

 因みにミニコンポ基板の条件は以下の通りであり、マイグレーション発生要因にばっちり合致でした。 

DC電圧:912ボルト 。

・基板:紙フェノール基板(還元性雰囲気)フラックス残渣あり 。

・はんだ:Sn-Pb。 

  洗濯機や風呂&トイレ用機器(湯沸し器、室内コントローラー、ウォシュレットなど)の様に実装基板に防

  湿コーティングや樹脂埋め処理を行えばマイグレーションを防止できるとは思いますが、オーディオ機器は

    そもそも高湿度雰囲気での使用を想定していませんので防湿処理は行わないのが一般的です。 

 なお、実装基板においてAgマイグレーションが最も発生しやすいのは紙フェノール基材を用いAgペーストを

 穴埋めした構造のAgスルーホール基板であり、小型オーディオ機器やミニコンポの一部に採用されてはいま

 したがこれらの機器にはAgマイグレーションの発生の経験はありません。高湿度の使用環境であれば発生し

 たと考えられます。


 

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